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あさがお制作見聞録③ 『あさがおのために残る夜』

あさがお制作見聞録③
『あさがおのために残る夜』

文:制作進行 成田和優

4月20日の27時、雑誌掲載用の原稿に悪戦苦闘する佐藤監督と目が合った。
「口羽さんのところに遊びにいきませんか。」
「あさがお」撮影監督の口羽さんが別作品の撮影で同じく悪戦苦闘している最中であることを、SNSを通じて察知したそうだ。
一も二もなく承知し、1フロア上にあるAssez Finaud Fabric.に遊びに行った。
果たして冷えピタを額に貼った口羽さんが一人黙々と作業をしていた。

佐藤監督が挨拶をしてモニタを覗きこむと、本来作業しているはずの別作品ではなく「あさがお」3話終盤の新幹線を撮影していた。
佐藤監督は破顔して、
「『あさがお』のためにこんな時間まで残ってくれる人がいるから、この作品はきっといい作品になる。今日のことを覚えておいてください」
と私に言った。
その後2人は3話終盤の撮影処理を、実に楽しそうに試行錯誤していた。
私は邪魔にならないよう少し距離を取ってその姿を眺めた。

どれだけの人が「あさがお」のために夜を越えてくれただろう。
名前も顔も良く知っている人、名前しか知らない人、受話器越しの声しか知らない人。

「私たちの知らないところにも仲間がいた」

のちに佐藤監督はそう言った。
だからきっと、名前も顔も声も知らない多くの人もまた「あさがお」のために夜を越えてくれたことだろう。

満足する撮影プランを組み立てたあと口羽さんは、「何があっても一日に一度はシャワーを浴びると決めてるんです」と言った。佐藤監督は頷いた。
「それはとても大事なことです」

スタジオに戻るまでの短い道すがら、佐藤監督は、こういう人がいるから出来るんだよ。こういう人がいるから作るんだよ。こういう人がいるから……と繰り返した。何度も。

スタジオに戻ると動画検査の大久保さんを始めとする動画スタッフの皆が「ここは他所のスタジオではなく、絶対に自分達でやらなければならない」と決めた、ことに大事で、甚だしく大変で、とても美しいカットと戦っていた。

こういう人がいるから出来るんだよ。こういう人がいるから作るんだよ。こういう人がいるから……。